大家から見た定期借家

1. 定期借家契約の利点

建物の賃貸借物件の多くに、例えば賃貸借期間が2年で、2年毎に更新する等の定めがあります。

建物の普通賃貸借契約は、原則更新されるので、大家が賃借人に明け渡しを求めるためには、法律上は、正当事由が必要です。有り体に言えば、引っ越し料等の支払いが必要です。飲食店や店舗では、家賃200ヶ月分も支払わなければならなくなった事例もあります。

そこで、賃借人に明け渡しが見込まれる場合、例えば、賃貸している建物が老朽化し建て替え予定がある場合や、大家が自己使用する必要性が生じる予定がある場合で、多額金銭負担を避けて確実に明渡しを求めたいのであれば、賃料は下がりますが、大家は、定期借家契約を締結して、賃貸借契約が更新しないようにすることができます。

ただし、定期借家契約には、いくつか、注意点があります。以下で述べる注意点に気をつければ、定期借家契約の利点を活かすことができます。

2. 定期借家は管理が重要

定期借家契約は、契約締結時に、借地借家法38条1~2項が規定する書面での契約や契約更新がない旨を記載した文書の事前交付等の要件を満たした場合のみ有効です(借地借家法38条3項)。定期借家契約による賃貸し建物を購入する場合は、それらの要件が満たされているのか、よく確認する必要があります。

そして、期限に明渡を求める場合、定期借家契約満了時には、定期借家契約満了の1年から6ヶ月前まで(通知期間)に、期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知を行う必要があります(借地借家法38条4項)。

このため、定期借家の期限を延長する合意をする場合でも、期限の6ヶ月前までの通知期間にすることが望ましいものといえます。通知期間中に期限延長の合意ができない場合は、ともかく、通知期間中に期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知を送る必要があります。

なお、通知期間中に期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知を発送後期限前に、期限を延長する合意をすることも、再度借地借家法38条1項、2項の要件を満たした定期借家契約を締結することにも、差し支えありません。

ところが、大家は、定期借家契約満了の1年から6ヶ月前までの通知期間を失念して、期間延長や再度の定期借家契約締結についての協議や、建物の賃貸借が終了する旨のを通知をしないままになっている例が散見されます。

通知期間に建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなかった場合、借地借家法38条4項但し書きに、満了後の通知でもよい場合が規定され、期間満了後役3ヶ月半後の通知でもよいとした裁判例もあります(東京地方裁判所平成21年3月19日判決。判例時報2054号98頁)。

しかし、上記裁判例では、「期間満了後、賃貸人から何らの通知ないし異議もないまま、賃借人が建物を長期にわたって使用継続しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し、あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には、一般条項を適用するなどの方法で、統一的に対応するのが相当というべき」とされており、長期にわたって通知をしない場合にどうなるか、という問題があります。

大家が長期間放置していたような事例の場合は、期間満了後に通知をしても、終了を対抗できないとされる可能性が高いと考えられます。

したがって、長期にわたって通知をしなかった場合は、予備的主張として、普通賃貸借契約を前提に、正当事由を主張して、明け渡しを求めていくことになります。

3. 定期借家契約を長期に反復継続している場合の問題点

さらに、定期借家契約では、定期借家を繰り返している事案でも、定期借家と評価されるのか、という問題もあります。

現在の定期借家制度は平成11年に改正されたものですが、この間、例えば、5年の定期借家を4回繰り返しているような事案の場合に、大家から、定期借家であることを理由に、4回目の定期借家契約の期間満了で終了させられるのかどうか、という問題です。

定期借家の各要件を厳密に満たしていれば、よいとも思えますが、そのような事案では、前述したとおり、定期借家契約締結時の要件や終了の要件を満たしていないか、欠けている事案が多いと考えられます。事案によっては、賃借人から、実質的には普通賃貸借契約の更新と同様とされ期間の満了後に賃貸することが前提となっていた、と主張される可能性もあります。

大家としては、定期借家の期間満了で明け渡しを求められると思っていたのに、できない、ということになりかねず、裁判で争うとしても、事案の性質上、やってみなければわからない要素もあり、裁判所に持っていくこと自体のリスクがあります。

この場合でも、大家は、予備的主張として、普通賃貸借契約を前提に、正当事由を主張して、明け渡しを求めていくことになります。ただし、現在の定期借家制度ができてから20年程度なので、何度も定期借家を繰り返した紛争事案の裁判例は、知られていません。なお、立ち退き料については、前述したとおりです。

4. 管理を任せる不動産業者が重要

以上のとおり、定期借家契約は、明け渡しを必要とする大家にとっては利点のある制度ですが、契約締結時の要件、満了時の要件をすべて満たさなければ、せっかく定期借家契約を締結しても、定期借家契約と評価されない可能性があるリスクがあります。

このような事態にならないためには、定期借家契約の締結時だけでなく、通知期間中の期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知等を、管理のしっかりした不動産業者に任せることが重要です。

定期借家の各要件を厳密に満たしていれば、よいとも思えますが、そのような事案では、前述したとおり、定期借家契約締結時の要件や終了の要件を満たしていないか、欠けている事案が多いと考えられます。事案によっては、賃借人から、実質的には普通賃貸借契約の更新と同様とされ期間の満了後に賃貸することが前提となっていた、と主張される可能性もあります。

不動産業者としては、大家のリスクが多いので、定期借家の管理を快く受けてくれるところは多くないかもしれません。

5. 定期借地との違い

なお、定期借家定期借地は、異なる制度ですので、ご注意ください。

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